お酒を飲まない、油ものを摂らないのに脂肪肝?
肝臓の病気といえば、アルコールの多飲によるアルコール性肝障害や肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎などがよく知られています。
最近では、これらを原因としない肝臓病「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」が注目されており、進行すると肝硬変や肝がんになる恐れもあります。
また、肝細胞に脂肪が一定以上蓄積した状態を「脂肪肝」と言い、アルコールの多飲による脂肪肝を「アルコール性脂肪肝」といいます。
アルコール以外が脂肪肝を引き起こす原因としては、不健康な食生活や運動不足といった生活習慣の乱れやストレス、内臓肥満などがあります。
脂肪肝の方の肝細胞を顕微鏡で確認すると、白く見える「油」が多量に認められます。
脂肪肝の方の中には「油ものはほとんど食べない」という方もいらっしゃいますが、炭水化物や糖分(砂糖や果糖)の過剰な摂取は、それらを構成する糖質が中性脂肪に形を変え、肝細胞への蓄積へとつながるため、脂肪肝となります。
脂肪肝で飲酒以外が原因であるとされる指標は、1日あたりに飲むお酒に含まれるアルコール(エタノール)量が男性で30g以下、女性で20g以下であることとされています。
つまり、単純な飲酒量ではなく、例えば350mlの缶ビール(エタノール濃度5%)1本であれば、20gのエタノールに相当します。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とは?
NAFLDには、「単純性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」が存在し、「単純性脂肪肝」は、進行せず良性の経過をたどり、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」は肝硬変や肝がんへと進行する可能性があります。
NASHは国内に約100〜200 万人存在するとされています。
NASHの症状
通常、NASHは特徴的な症状はなく、無症状のことが多いです。
肝線維化や肝硬変へと進行すると、倦怠感や黄疸、掻痒感、腹水などの症状が出現することがあります。
NASHの原因
NASHの原因として考えられるものは以下の通りです。
- 肥満 (内臓脂肪蓄積)
- 運動不足
- 過食
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 高血圧症
- 急激な体重減少
- 薬剤 (ステロイド、タモキシフェンなど)
など
NASHになりやすい人
非アルコール性脂肪肝の人の一部にNASHは発症します。
中でも、NASHになりやすい人は以下の通りです。
- 男性の方
- 50歳以上の女性の方
- 生活習慣病の方
- BMIが23以上の方
- 血小板の値が低い方(血液検査)
- ALPの値が低い方 (血液検査)
NASHから肝がんに進行しやすい人
NASHから直接肝がんに進行することもあり、以下のような方は危険性が高く注意が必要です。
- 60歳以上の方
- 2型糖尿病の方
- BMIが30以上の方
- 肝機能が低下されている方 (血液検査)
- 血小板の値が低い方 (血液検査)
NASHの生存率
NASHによる肝硬変の死因は肝臓癌や肝不全など肝関連死が多く占めています。
NASH関連の5年生存率で報告されているには以下の通りです。
5年生存率 | |
---|---|
NASH | 70〜95% |
肝硬変に至った場合 | 75% |
肝臓がん発生後 | 25% |
NASHの検査
NASHの確実な診断には、皮膚の上から針を刺して肝臓の細胞を採取する「肝生検」が必要ですが、体への侵襲が伴うため、その前に他の検査でNASH以外の疾患を除外し絞り込みます。
検査 | 概要 |
---|---|
腹部超音波(エコー)検査 | 肝臓に脂肪が溜まっていると白く輝いて見える |
超音波エラストグラフィ | 超音波の振動の伝わる速さで、肝臓組織の硬さを知ることができる |
FIB4-index(フィブフォーインデックス) |
年齢、GOT(AST)、GPT(ALT)、血小板数から肝臓の線維化の程度を算出 |
NASHの診断基準
以下の3項目が満たされると、NASHと診断されます。
NASHの診断に必要な3項目 | 概要 |
---|---|
非飲酒者である | エタノール換算で1日20g未満の飲酒
|
肝組織所見が脂肪肝炎である |
|
他の原因による肝疾患の除外 | ウイルスや自己免疫によるものなどの除外が必要 |
NASHの診断には、一般的に肝生検を行います。
肝生検では、皮膚の上から針を刺して肝臓の組織を採取し、肝臓の組織を顕微鏡で調べます。
良性の脂肪肝であれば、肝細胞に、白い部分(脂肪が蓄積)が散らばって見えます。
しかし、NASHの場合は、白い部分以外に黒い部分(炎症)も多く存在するようになります。
NASHは治る?治療法
現時点で、NASHの治療として確立されたものはありませんが、生活習慣との関連が強いため、まずは生活習慣の改善に取り組みます。
食事療法や運動療法で減量を行い適正体重に近づけます。
生活習慣の改善で効果が不十分な場合は、薬物療法も並行して実施します。
食事療法
エネルギー制限を行うことになりますが、食事量を極端に減らさないように、野菜類・きのこ類・海藻類などを積極的に取り入れます。
運動療法
有酸素運動である、ウォーキングやジョギングなどを毎日30分程度行うことが推奨されています。
無理をせずに毎日行うようにしましょう。
薬物療法
- 必要に応じて以下のような薬を使用します。
- 抗酸化剤(ビタミンC、ビタミンE)
- 糖尿病治療薬
- 脂質代謝異常治療薬
- 肝庇護剤