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原発性胆汁性胆管炎(PBC)

痒みが止まらない…原発性胆汁性胆管炎かも?

痒みが止まらない…原発性胆汁性胆管炎かも? 肝臓はさまざまな働きをしていますが、その中の1つに消化液である胆汁を作るというものがあります。
胆汁は肝臓の肝細胞という細胞で作られ、胆管を通っていったん胆嚢で蓄えられた後、十二指腸へと流れこみます。
原発性胆汁性胆管炎では、肝臓の細い胆管が壊れます。その際にAST、ALT、ALP、γGTPの上昇を伴います。
また、胆汁の流れが通常よりも滞り、胆汁中の成分であるビリルビンが血管内に逆流します。
進行すると全身の組織にビリルビンが沈着し、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)が生じ、強い痒みを引き起こすことがあります。
また、男女比は約1:4で中年以降の女性に多い病気です。

原発性胆汁性胆管炎の症状

原発性胆汁性胆管炎の症状 多くの方の場合進行は極めて遅く、現在は治療薬により無症状のまま経過する方が大半になっています。
しかし、典型的な進行を示す方の場合は、滞った胆汁や炎症により肝細胞が破壊されていき、破壊された肝細胞は線維に置き換わり、徐々に肝硬変へと進行していきます。
また、胆汁が滞ることで、ビタミンDの吸収に必要な胆汁が不足し、ビタミンDが吸収されないことで特に女性では骨粗鬆症になりやすくなります。
胆汁にはコレステロールの運搬の役割もあるため、血液中のコレステロールが上昇し、目の周りに脂肪が沈着する眼瞼黄色種が出現することもあります。
肝硬変になると、血流が悪化するため破裂すると大量出血を起こす危険性のある「食道・胃静脈瘤」や肝機能が著しく低下することで、黄疸や意識障害、腹水貯留といった症状が出現します。
最後には肝不全となり、肝移植を行わない限り助からない状態に陥ることもあります。

原発性胆汁性胆管炎の原因

原因は特定されていません。
そのため、厚生労働省により指定難病に指定されています。
近年では、国内外の研究により、免疫反応の異常(自己免疫反応)が関与する自己免疫疾患であることが明らかになりつつあります。
また、 原発性胆汁性胆管炎を罹患している方の子供が同じ原発性胆汁性胆管炎になることはほとんどありませんが、親子、姉妹などの同一親族内では罹患する確率が比較的高いとされています。
このことから、原発性胆汁性胆管炎の発症には遺伝の影響があると考えられており、国内外の研究では、発症に関与しているいくつかの遺伝子が認められています。

原発性胆汁性胆管炎の検査と診断基準

原発性胆汁性胆管炎では症状や検査から導き出される診断基準があります。
以下のような検査を行い、診断を実施します。

検査 概要
血液検査 胆道系酵素 肝内への胆汁うっ滞が生じると、胆道系酵素(ALP、γ-GTP)上昇します
さらに進行すると黄疸の指標であるビリルビン値が上昇します
免疫グロブリン IgM 血清IgM値が高値となるのが特徴です
症例の90%以上で高値となります
抗ミトコンドリア抗体 抗ミトコンドリア抗体は、自己抗体のひとつであり、原発性胆汁性胆管炎で特徴的に陽性となります
約90%で陽性となります
肝生検 皮膚の上から直接肝臓に針を刺し、肝臓の組織を採取し、顕微鏡で観察します
原発性胆汁性胆管炎の正確な診断や病期の判定を行えます
しかし、以下のような典型的な臨床所見が揃っている場合は、診断のために必ずしも必要ではありません
  • 他の疾患でないことが確認されている
  • 血液検査で慢性の胆汁うっ滞所見がある
  • 特徴的な自己抗体である抗ミトコンドリア抗体が陽性である
一方で、定型的ではない例や抗ミトコンドリア抗体が陰性の場合、組織学的病期、病型、活動性等の総合的診断には、肝生検で得られる肝病理組織所見は重要です
腹部エコーや CT などの画像検査 胆管の拡張や狭くなっている部分などがないかを見ることで、原発性胆汁性胆管炎以外の所見がないかを確認する

原発性胆汁性胆管炎の治療

完治する薬剤は開発されていません。
そのため、胆汁の流れを促進し進行を抑える効果がある「ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)」が世界中で使用されており、約9割の方で血液検査の数値の改善がみられます。
多くの方で副作用は出現せず、長期に渡って服用できますが、まれに、胃痛や下痢などの消化器症状が出ることがあります。
ウルソデオキシコール酸だけで十分に肝機能障害が改善しない場合、高脂血症の治療に広く使われている「ベザフィブラート」という薬がたびたび使われます。
ベザフィブラートは、原発性胆汁性胆管炎に対して正式には保険適用となっていませんが、ウルソデオキシコール酸の効果が悪い人にも有効とされており、 日本だけでなく世界中で使用されています。
また、自己免疫性肝炎を合併することもあり、その場合にはステロイドを併用します。
原発性胆汁性胆管炎に対する治療は、病気そのものに対する治療と、原発性胆汁性胆管炎に伴って生じる症状や合併症、肝障害に対しての治療に大きく分かれます。
下記は特徴的な症状の一例は以下の通りです。

症状 概要
かゆみ 特徴的な症状
軽い場合は、最初に抗ヒスタミン薬の飲み薬や軟膏が使用される
これらでは、治らない場合は、肝臓病を起因とするかゆみを軽減するナルフラフィン(レミッチ®)が処方されることもある
骨粗鬆症 ビタミンDの吸収障害により、特に閉経期の女性では骨粗鬆症が進行しやすくなる
活性化ビタミンDのほか、多くの薬剤が使用されている
肝硬変 他の原因による肝硬変と同じ治療を行う
門脈圧亢進症 血液が肝臓に流入できないことで、門脈の血圧が上昇する
これにより、腹水や脾臓の腫大、胃・食道の静脈瘤を引き起こす可能性がある
胃・食道の静脈瘤 胃カメラによる定期的な経過観察や放置しておくと出血の危険性が高いと考えられる場合は、内視鏡を使った予防的治療が行われる

肝癌の併発の可能性もあるため、定期的な超音波(エコー)検査を行います。
病気が進行し、内科的治療に限界が生じた場合は肝移植が検討されますが、重症進行例では手術成績が悪くなるため、適切なタイミングを見極める必要があります。
適切な治療が継続的に行われていれば、大きな制約なく日常生活を送ることができます。
しかし、適切な治療が行わなければ生命を脅かす病気です。
当院では日本肝臓学会から認定を受けた肝臓専門医が診療を行っています。
超音波(エコー)検査についても、必要に応じて当日検査が可能です。
少しでも気になる方はお気軽に当院にまでご相談ください。

原発性胆汁性胆管炎は完治する?予後は?

原発性胆汁性胆管炎は現在のところ完治できませんが、無症候性原発性胆汁性胆管炎であれば、明らかな症状がない限り予後は大変良好です。
ウルソデオキシコール酸が治療に使用されるようになってからの経過は明らかに改善しています。
しかし、5年間で約20~30%の方が症候性原発性胆汁性胆管炎に移行するという報告もあり、持続的な加療が必要です。
5年生存率は血清ビリルビン値(黄疸の程度を示す値) によって変化し、以下のように報告されています。
(しかし元々の体質性の黄疸の方もいらっしゃいますので一概にすべての人が下記の表に当てはまる分けではありません)

血清ビリルビン値 5年生存率
2.0mg/dl 60%
8.0mg/dl以上 35%

原発性胆汁性胆管炎の食事や運動制限

原発性胆汁性胆管炎の食事や運動制限 血液検査だけに異常がみられる、ほとんど症状がない無症候性原発性胆汁性胆管炎の方であれば、薬の服用を継続すること以外には、日常生活における特段気をつけるべきことはありません。
安静に過ごす必要はありませんし、お仕事も普通にしていただけます。
むしろ最近では、食事のエネルギー制限や適度な運動により肥満予防の必要がある方が増えています。
ただし、特に問題がないからといって薬の服用を中断すると病気の進行が進む可能性があります。
定期的な受診と薬の服用は継続してください。
また、肝硬変へと進行した場合には、食事や運動などでより注意が必要になります。
この場合は、主治医とよくご相談してください。